お一人様、空いてるカウンター席でお願いシャス!

黄色いキチガイ電車から下車すると、五十がらみのジジイとババアがホームのベンチで手を取り合いながら互いを見つめ合っているという『世界の果て』を目撃した。私はガン無視してホーム上のゴミ箱に向かった。

決して『世界の果て』を見た絶望からゴミ箱に身を投じようとしたわけではなく(それならむしろホームから線路に身を投じる)、空っぽのペットボトルを捨てたかったからだ。

そしてたどりついたゴミ箱の目の前では、髪の毛が一本もない意味不明なおっさんが紙袋を大量に置いて、そこから取り出した意味不明な物体を捨て始めようとしていた。

見なかったことにしてスルーした ゴミ箱にすら縁がない

そのまま駅を出て雨上がりの家路を行く

途中に人生の袋小路が建っている 日高屋っていうんですけど

即入店する

 

金曜夜の熱烈中華食堂日高屋には『大きな物語』が流れている

 

すぐ目の前に店員がいても直接店員を呼ばず全員無言で卓上コールボタンを押す

 

テーブル席全てを占拠していた意味不明な女の集団が店を出ると、日高屋に夜の帳が降りてくる(開店から21時までの禁煙タイムが終わる)

 

緑茶ハイ280円より安い餃子220(6ヶ)

 

誰もがビールを頼む空間の中、五十がらみの夫婦(さっきのジジイとババアとは別人)がレモンサワーと肉野菜炒めを分け合っている

 

その中で私はひとり壁際のカウンターに座り、ぬるい水を飲み、箸をガンガン壁にぶつけながら餃子を食べ、小学生の頃床の掃除に使っていた雑巾の香りを思い出させる中華スープを飲んだ。茶碗から落ちた白米が(食事の才能がない)、カウンターの下の暗い闇の中に吸い込まれていく…

 

 

もう二度と日高屋に来たくはない、切なる気持ちで思いながら620円払う

店を出て2秒後 傘を忘れたのに気づく

即再入店

店員がいらっしゃいませと言いかけて怪訝な表情になるのをガン無視してカウンターの下の暗黒を覗き込む

そこには何もなかった

黄色いキチガイ電車に忘れてきたのだ 『世界の果て』に気を取られて

 

ビニール傘はお忘れ物承り所に運び込まれ保管期間いっぱいまで全員にガン無視され放置され、そこからどこかへ運ばれていく

二度と戻ってこない 取りに行く気もない

 

こうして傘はいつ来るかわからない廃棄の刻をただやるせなく待つだけの存在になる

俺の人生みたいだと思った